桜の花びらが降る頃、きみに恋をする

慣れない人混みに紛れながらしばらく歩いていると、大きな学校が見えてきた。

この学校こそ、私が今日から通う高校。

吸い寄せられるように校門を潜ると、先程の人混みとは打って違い、異常な程の興奮したような空気に包まれた。

掲示板の前には、同じ制服を来たたくさんの人。

中学からの友人なのか、同じクラスになれたことに喜ぶ人に、違うクラスになって落ち込む人たちがあちこちにいる。

私はそんな人たちの波を縫って、掲示板の前に立つと自分の名前を探した。

【1年B組 ‥‥‥双葉 蒼】

どのクラスになったとしても、私には関係がない。

この学校には、知り合いなんて誰もいないから。

その時、ピンク色のなにかが目の前をひらひらと横切った。

‥‥‥なんだろう?

不思議に思い、掲示板の横を見ると1本の桜の木がそびえ立っていた。

私の心とは打って変わって、満開に咲いている桜。

穏やかで優しい春風にのって花びらが宙に舞い散っている。

その光景を見た私は、居た堪れない気持ちになった。

毎年、桜の季節が巡ってくるたびにあの日のことを嫌でも思い出してしまうから。

頭の中に蘇った嫌な過去をかき消すようにかぶりを振ると、校舎の中へと足を踏み入れた。
< 5 / 209 >

この作品をシェア

pagetop