桜の花びらが降る頃、きみに恋をする
「あのね‥‥‥私が笑えなくなった理由は今から7年前。私が小学3年生の時に起こった出来事がきっかけなんだ」
声が少し震える。
あの日のことを思い出すだけで胸が苦しくなるけれど、陽向くんだから聞いて欲しい。
「休日、家族みんなで水族館に行ったの。その時、お父さんからプレゼントとしてもらったのが、このイルカのキーホルダー」
スクールバッグにつけていた水色のイルカのキーホルダーを陽向くんに見せた。
「でも、その日の帰り道、信号無視して物凄いスピードで走って来る車に気づかずに歩道に足を踏み入れてしまったの。もう、気づいた時には、目の前まで迫ってきていて逃げなきゃと思うのに怖くて動けなくて、そんな私をお父さんが庇ってくれたんだ‥‥‥」
だんだん目頭が熱くなり、手に持っているイルカのキーホルダーをぎゅっと握りしめた。
「おかげで私は助かったんだけど、お父さんが車に轢かれてしまったの」
「‥‥‥っ」
そう伝えると、陽向くんも悲しい顔になったのが分かった。
「その後のことはあまり覚えてなくて、気付くと近くの病院にいた。そこで、お母さんからお父さんは天国へと旅立ってしまったと知ったんだ」
今もずっと後悔している。