桜の花びらが降る頃、きみに恋をする
「‥‥‥んっ」
ゆっくり目を開けると、見えた先には見慣れた天井。
そして、夢と同様、右手にぬくもりがある。
陽向くんが片時も離さず手を繋いでくれていた。
「蒼、おはよう。って、どうした?」
陽向くんは、なぜか心配そうに私の顔を覗き込む。
私の頬になにかがぽろぽろと伝っていて、そこで、自分が泣いていることに気付いた。
陽向くんは、手を握ったままもう片方の手で私の目元を優しく拭ってくれる。
「怖い夢でも見た?」
陽向くんの問いに、ゆっくり首を横に振った。
「ううん。不思議な夢を見たの」
「‥‥‥不思議な夢?」
首を傾けながらそう聞き返す陽向くんに、私は頷いた。
「誰かが必死に私を呼んでいる夢。夢なのに、夢じゃないように思えてなんだか不思議なの」
まるで、現実の世界で男の子が私のことを呼んでいるかのように思えた。
そう伝えると、陽向くんは少し言葉を探るようにして言った。
「‥‥‥ねぇ、蒼。その夢の話、詳しく教えてくれないかな?」
「えっ?」
「どんな夢なんだろうって気になって」
ちょっと意外だった。
陽向くんが夢の話を聞きたいなんて言ってくるなんて。
「あっ、えっとね‥‥‥」
さっき見た夢を思い出しながら、陽向くんに詳しく話した。
「その後のことは、記憶にある?」
「ううん。その男の子の『起きて!』っていう叫び声で目覚めたからここまでなんだ」
「‥‥‥そっか」
そう小さく呟いた陽向くんの表情は晴れなかった。