そうだ、転職をしよう。
しかし、勇者は魔王よりも一歩及ばず、呪文はすぐに出てはこなかった。

「見てよ。」

魔王はそう言い、

バッ!!

と、霧に包まれて現れた手の中の物を、勇者の前に取り出した。

勇者は突然のことに固まる。

その手にしているものはどう見ても、

『絵』。

しかも本格的なキャンバスに描かれた、この森の絵だった。

「どう思う?」

いつの間にか取り出したスタンドに絵を立て掛けて腕組みをし、その絵を見つめてそう問う魔王。
勇者は完全に自身の手が止まり、うろたえる。

「…え、いや…どう、って…」

いい色だ。
全体的に細やかに描かれているし、色使いも悪くないのでは無いだろうか?
…勇者だったこともありスポーツの方ができるので、絵のことは良く分からないが。

「…なかなか、いいんじゃないか…?」

勇者のその言葉に、魔王は少々得意気にこう返す。

「俺が描いたんだけど。」

そう、魔王はニッと笑った。

…コイツはこんな呑気で変な奴だが、この辺りの荒くれ魔物を統べている『魔王』だったはず。
そして自分もこの辺にだって知れ渡っているはずの『勇者』で…
…普通、魔王が勇者に自分の描いた絵を呑気に見せびらかす、なんてことがあるだろうか?
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