学園怪談
 それからも先輩は何度か印刷機から予知を印刷しました。この印刷機が予知してくれる未来は悪いことばかりでしたが、次からはうまく回避するようになりました。
「これは悪い未来から自分を救ってくれる神のお告げに違いない!」
そして、権田先輩はとり憑かれたように印刷機を使う日々が続きました。
「先輩、そんな危ない物をいつまでも使わないほうがいいんじゃないですか?」
 そんなある日、私はだんだんと神経質になっていく先輩を見かねて言いました。
「大丈夫だよ斎条。俺は大丈夫。あれさえあれば全ての不幸を避けて通れる」
 先輩はニヤリと薄気味悪い笑いを浮かべながら、また印刷室へと消えていきました。
 ……しばらくして、私は生徒会室に一番乗りをした日に、権田先輩のカバンから印刷した紙が大量に入っているのを見つけてしまいました。気になった私は、誰も辺りに人がいないのを確認すると、恐る恐るそれをめくっていきました。
 犬に追いかけられて噛まれる先輩、プールで溺れる先輩、階段から転げ落ちる先輩、車にはねられる先輩。数々の悪い予知が先輩を襲ってきたのがわかりました。でも、先輩はそれら全てをうまく避けていたみたいでした。
 でも、この時私が気になったことは、先輩の身の危険度が次第に上がってきていることでした。不幸を避け続ける事で、どんどん命に関わる危険性のある事故に巻き込まれていっているようでした。
 私は先輩が心配になり、急な胸騒ぎを覚えて印刷室へと走りました。
 印刷室の入り口まで来たところで、私を突き飛ばすようにして先輩が走り出ていきました。
「俺は死なない! 死ぬもんか!」
「あ、せ、先輩!」
 私の呼びかけも聞こえないのか、必死の形相をしていました。
 カシャン、カシャン、カシャン……。
部屋の中から印刷機の排出する紙の音だけが聞こえました。
 私は恐る恐る印刷機へ歩み寄ると、床にばら撒かれた無数の紙を見ました。
「こ、これは……」
 そこには知の滴るナイフを持った男と、その男の足元に転がる一人の男の姿が印刷されていました。
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