学園怪談
 ……先輩はついに命を落とす未来まで見てしまったんです。
 その後の未来はないのか、印刷機は真っ白な紙をカシャン、カシャンと排出し続けました。
先輩はそれから授業を休むようになり、ほとんど学校にも姿を現さないようになりました。
みんなが心配して電話をしても、先輩は部屋に閉じこもってしまっているらしく、何も話をすることは出来ませんでした。
 そして、2週間くらいが経った日のこと……。
 先輩は自宅で父親を殺害してしまったんです。息子の事を心配して部屋に入ってきた父親を、自分を殺しに来たと勘違いしてしまったんです……。
 ……あの予知は先輩が死ぬのではなく、先輩が人を殺すという意味だったんですね……。

 ……。
「先輩はそれから少年院に入れられてしまい、まだ帰っては来れません。不幸を避け続けることが出来れば確かに幸せです。でも幸せと不幸せは常に表裏一体です。幸せなことを受けるためには、それに見合った不幸が必要なんだと思います」
 斎条さんはそこまで話すと、ゆっくりとペットボトルのスポーツ飲料水を飲んだ。
 私もなんだか喉が渇いたので水筒から麦茶を一杯コップにくんだ。すると、急に横から徹さんが出てきて麦茶をかっぱらって一気に飲み干した。
「いや、いいこと言うね。今度の俺の話は弘子ちゃんの話に似た、そんな幸福と不幸のお話だよ」
 私は無残にも飲み干されてしまった麦茶を見て、ふと思い出した。
『やば、そう言えば水筒の中身、昨日から替えてなかった』
 私は苦笑いしながら徹さんから水筒のコップを受け取った。
 そんな私に徹さんは親指を立ててポーズを取っていた。
 私は心の中でささやかに祈った。
 ……どうか彼のお腹に中りませんように。


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