学園怪談
第32話 『手鞠歌』 語り手 斎条弘子
「てんてんてん。てんてんてん。てんてん手鞠の転がる方へ、手鞠の方へは行ってはならぬ。てんてん手鞠、てんてん手鞠、手鞠で遊ぼ、てんてんてん……」
斎条さんはとても綺麗な歌声を披露してくれた。みんなからの拍手が響く。
「わー、弘子ちゃんって歌上手~」
「うむ。なかなかビブラートが効いとるね」
紫乃さんと徹さんが賞賛の言葉をかける。
「えへへ、ありがとうございます」
「ところで斎条さん、いまの手鞠歌は?」
私は歌声以上に、彼女が歌った手鞠歌の独特なメロディーに惹き込まれた。
「これはですね、母から聞いたんですけど。この辺りに古くから伝わる手鞠歌だそうです。昔の子供達はよくこの歌を歌いながら、鞠つきをしたそうです」
斎条さんはそう言うと、カバンから一つの手鞠を出した。
手鞠はひどく汚れていて、今までに相当使い込まれているのが分かった。
「この手鞠は学園の体育館倉庫の奥から見つかったものです。私はこの手鞠を通して不思議な体験をしました。そのことについてお話しします」
……。
今から1ヶ月くらい前、私は体育委員の仕事ということで、クラスメイトの由真ちゃんと授業後にマットの片づけをしていました。
すると、倉庫の奥の方で何やら声がするのです。
『てんてんてん。てんてんてん。てんてん手鞠の転がる方へ、手鞠の方へは行ってはならぬ。てんてん手鞠、てんてん手鞠、手鞠で遊ぼ、てんてんてん……』
始めは子どもがいるのかと思って二人で倉庫の中を探しました。でも中には誰もいなくて、奥のほうにこの手鞠がポツンと寂しく落ちていただけでした。
「な、なんだったんだろうね、今の」
「弘子、その手鞠、なんだか気味が悪いよ。早くどこかに捨てなよ」
私の拾い上げた手鞠を見て由真はそう言いました。
「うん……」
でも、私はなぜか手鞠を手放したくない気持ちになりました。この手鞠から何か悲しいような、切ないような、そんな気持ちが体に流れ込んでくるような気がしたからです。
私は手鞠を倉庫の奥の道具箱に入れると、その場を後にしました。
……その夜。
『てんてんてん。てんてんてん……』
私は夢心地でしたが、何か昼間の歌が聞こえた気がして目を開けました。
「てんてんてん。てんてんてん。てんてん手鞠の転がる方へ、手鞠の方へは行ってはならぬ。てんてん手鞠、てんてん手鞠、手鞠で遊ぼ、てんてんてん……」
斎条さんはとても綺麗な歌声を披露してくれた。みんなからの拍手が響く。
「わー、弘子ちゃんって歌上手~」
「うむ。なかなかビブラートが効いとるね」
紫乃さんと徹さんが賞賛の言葉をかける。
「えへへ、ありがとうございます」
「ところで斎条さん、いまの手鞠歌は?」
私は歌声以上に、彼女が歌った手鞠歌の独特なメロディーに惹き込まれた。
「これはですね、母から聞いたんですけど。この辺りに古くから伝わる手鞠歌だそうです。昔の子供達はよくこの歌を歌いながら、鞠つきをしたそうです」
斎条さんはそう言うと、カバンから一つの手鞠を出した。
手鞠はひどく汚れていて、今までに相当使い込まれているのが分かった。
「この手鞠は学園の体育館倉庫の奥から見つかったものです。私はこの手鞠を通して不思議な体験をしました。そのことについてお話しします」
……。
今から1ヶ月くらい前、私は体育委員の仕事ということで、クラスメイトの由真ちゃんと授業後にマットの片づけをしていました。
すると、倉庫の奥の方で何やら声がするのです。
『てんてんてん。てんてんてん。てんてん手鞠の転がる方へ、手鞠の方へは行ってはならぬ。てんてん手鞠、てんてん手鞠、手鞠で遊ぼ、てんてんてん……』
始めは子どもがいるのかと思って二人で倉庫の中を探しました。でも中には誰もいなくて、奥のほうにこの手鞠がポツンと寂しく落ちていただけでした。
「な、なんだったんだろうね、今の」
「弘子、その手鞠、なんだか気味が悪いよ。早くどこかに捨てなよ」
私の拾い上げた手鞠を見て由真はそう言いました。
「うん……」
でも、私はなぜか手鞠を手放したくない気持ちになりました。この手鞠から何か悲しいような、切ないような、そんな気持ちが体に流れ込んでくるような気がしたからです。
私は手鞠を倉庫の奥の道具箱に入れると、その場を後にしました。
……その夜。
『てんてんてん。てんてんてん……』
私は夢心地でしたが、何か昼間の歌が聞こえた気がして目を開けました。