学園怪談
　……！
　驚いた事に、目の前に女の子がいました。今時見かけない、おかっぱ頭の女の子でした。着ている服は酷くよれよれで、、薄汚れていました。それでも女の子は気にするでもなく、楽しそうに歌を歌いながら手鞠をついて遊んでいます。こちらに気づいてはいないようです。いや、気づいていないというよりも、その子は実際にはそこにいないのです。たぶん私はまだ夢の中だったんじゃないでしょうか。彼女の姿はおぼろげで、向こう側が透けて見えるようでした。
『……てんてん手鞠の転がる方へ、手鞠の方へは行ってはならぬ。てんてん手鞠、てんてん手鞠、手鞠で遊ぼ、てんてんてん……』
　そのうちに女の子は手鞠をつき損ね、彼女の手元から零れ落ちた鞠はコロコロと転がって行きました。そして、鞠を追いかける女の子は暗闇へと消えていきました。
　その直後。
　キキイイイイ！　ドン！
　という車か何かのブレーキ音と、それに続いて何かこもった低い音が聞こえました。私の意識はそこでゆっくりと沈んでいきました。
　……次の日、私は由真ちゃんも同じ夢を見ていた事を知りました。彼女も夜中に例の手鞠歌で目を覚まし、女の子が遊んでいるのを見たということでした。女の子の特徴や手鞠歌の歌詞も一緒でした。
「彼女……いつも一人で遊んでいるのかな？」
　由真ちゃんの言葉に、私はボンヤリと夢の中の女の子を思い出していた。
　……その日の夜。
『てんてんてん。てんてんてん……』
　あ、またあの歌だ。
　また私の頭の中に、あの手鞠歌が聞こえてきました。でも、今日は昨日と少し違うことに気がつきました。声の主が２人なのです。
『……てんてん手鞠の転がる方へ、手鞠の方へは行ってはならぬ。てんてん手鞠、てんてん手鞠、手鞠で遊ぼ、てんてんてん……』
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表紙・目次

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