学園怪談
 それと同時に、どこからかブレーキ音が響いてきます。
 キキイイイイ!
「だ、だめえ!」
 私は後ろから女の子を捕まえると、咄嗟に後ろに倒れこみました。
 グオオオオ!
 そんな私達の目の前を目に見えない何かが走り抜けて行きました。
 私は黙って立ち上がると、ゆっくりと手鞠に近づき拾い上げました。そして女の子の方を振り向いて言いました。
「だめだよ、急に飛び出したりしちゃ」
 女の子は笑顔で手鞠を受け取ると、そのまま暗闇……今日は暗闇ではなく、明るい光が満ち溢れた空間へと消えていきました。

 ……てんてんてん。
「手鞠歌には、子どもが道路に飛び出さないようにするための警告が歌われていたんですね。今から30年くらい前は、まだこの辺りも交通整備がしっかりとされてなくて、子供達が車事故に遭うことが何件もあったそうです。手鞠の女の子も歌の意味まではしっかりと理解していなかったんですね」
 斎条さんは手鞠をつきながら寂しげに語った。
「それから、その女の子はどうなりました?」
「それから彼女は現れなくなりました。体育倉庫に残されたこの手鞠だけが、私と由真ちゃんの身に起こった事件の唯一の証拠じゃないでしょうか」
 てんてんてん。
 斎条さんの手鞠の音を聞きつけたのか、いつの間にかモミがやって来てじゃれついていた……。
 
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