学園怪談
 ……30分後。
「ふあああ。のぼせた~」
 庄田は布団にダイブし、のぼせた坊主頭を枕の下に挟み込んだ。
「しかしねえ。この田舎の学校にそんな怪談があるとはねえ」
「ああ、まったくだ」
 庄田を無視して、布団の上で向かい合って話す俺と水沢は、先程聞いた怪談を思い出していた。
 ……この旅館では幽霊が出るというのだ。それも毎年この時期にだけ必ず出現するらしい。生徒達の話では、昔同じように遠征で試合に来た他県の生徒が、ここで熱射病からくる脱水症状で死亡したというのだ。そして、夜な夜な旅館の中を徘徊しては蛇口にへばりつき『水をくれえええ』と言っているらしい。
 ……。
「ふむ。必ず毎年、全国で何人かの生徒が部活中の熱射病で死ぬニュースを耳にするしね、こんな山奥にもそういう事件があったのか」
「しかしまあ、旅館の中を徘徊しているってのは怖いね。それに俺達の部屋の目の前は丁度流しがあるしね」
 そう。俺達3人の小部屋の前は丁度トイレと流しが近い為、そういった怪談を聞かされると余計に怖く感じた。
「まあでも、あくまでただの噂だし、夜になったら部屋から出なきゃいいことだもんね」
 水沢は少し弱気な態度を見せたが、庄田はもうイビキをかき始めていた。
 ……次の日の夜。
「う、う~ん」
 夜中に急にトイレに行きたくなって俺は目覚めた。
 ……夜にトイレってのは怖いよね? しかも自分の家じゃなければよけいにそんな雰囲気になっちゃうものだよね。
 初日はぐっすり朝まで寝たから大丈夫だったんだけど、2泊3日の最後の夜であるこの日、寝る前に騒ぎ過ぎて水分を摂りすぎたせいか、夜中になる頃には膀胱はパンパンだった。始めは我慢しようとしたんだけど、やっぱりそのうちに我慢が難しくなってきた。
 ゴソゴソと起き出すと寝つきが悪かったのか、水沢が目を覚ましたようだった。
「あ、水沢。俺トイレ行くけど一緒に来てくれないか?」
 俺は頼んだよ。やっぱり一人で行くより二人でしょ。
「う、うん。いいよ」
 実は水沢も我慢していたようで、俺が声をかけると勢いよく布団から起き上がった。
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