学園怪談
 電気をつけて時計を確認すると、だいたい3時。いくら眠らない年頃の生徒達でも部活で疲れた体だ。この時間は他の生徒達も深い眠りに落ちているようだ。
 庄田は頭を光に照らされながらもイビキをかいており、起き出す気配はなかった。
 廊下に出ると夏だというのに震えるほど寒かった。山の高原では夜や朝方は冷え込むのを今朝体験済みだったが、それでも今晩は余計に寒い気がした。
 俺達はさっさとトイレに入ると、二人並んで小便器で用を足した。お互いになぜか無言で、早く部屋に戻りたいという気持ちが強かった。
 トイレを出ようと手を洗い終えた時、トイレの外から何か声が聞こえてくるような気がした。
「お、おい。何か聞こえないか?」
「え、う、うそ。そんな、何も聞こえ……」
『……をくれえええ』
 俺達の耳に低く奮えるような声が届いた。野太くどっしりとした重低音を思わせるボイス。明らかに人間の声とは思えないものだった。
「そ、そんな。どうせ庄田か誰かのいたずらだよね」
 苦笑いを浮かべる水沢の顔は泣き顔に近い気がした。
 俺達はお互いの体を支えあうようにしてトイレから首だけを出すと、廊下を見やる。
 ピチャ、ピチャ。
 廊下には誰もいないが、流し台の方から水の滴る音が聞こえてくる。誰かいるかどうかは、この位置では確認できない。
 仕方なくといった感じで水沢が先にトイレから流し台の方へと顔を覗かせた。
すると……。
「水をくれえええ!」
 はっきりと聞こえた。トイレに一番近い蛇口に、狭い流し台に窮屈に入り込むようにして何かがへばりついていた。汗をだらだらと流し続ける小さめの裸体、髪の毛は無く、ギョロリとした大きな二つの目が特徴的だった。見るからに生身の人間とは思えなかった。
「水をくれえええ!」
 蛇口を必死でひねろうとしているようだが、小さな手は捻る力が入っていないようである。
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