学園怪談
第5話 『地下道の壁』 語り手 斎条 弘子

 次に話を聞かせてくれるのは小柄な女の子だ。パッチリとした目が愛らしく、ひとなつっこそうな仕草はネコや犬などの小動物を連想させる。
「こんばんは。私は斎条弘子です。まだ1年生です。よろしくお願いします。この学園って凄く不思議な所がいっぱいありますよね、しかも呪われているかのような怖い所ばっかり。私はこの学園に入学してから、色々な話を聞いたり、実際に体験したりしてるから怪談なら任せて下さい」
 よほど好奇心旺盛なのだろうか、目をキラキラと輝かせて早くも興奮気味だ。
「皆さんは普段使っている地下道の秘密をご存知ですか?」
 ……地下道。校舎の真ん中の地下を通っており、正門を入って左右の玄関に挟まれるようにしてある通路のことだ。ここは主に裏のグラウンドへの連絡通路として使われている。
「そう、あの地下道のほぼ中央に雨が降った時だけ人の形をしたシミが浮き出るのを知っていますか? あそこには幽霊がいるという噂です。私の話はその話です」

 ……地下道は体育の時間や、部活動に出る運動部が毎日のように通る凄く賑やかな通路です。雨の日でも排水溝に水は流れ込むから氾濫でもしない限りは地下道の中央にまで水が流れることはありません。
 ……でも、私は本当に見てしまったんです。
ある雨の日の放課後、私は正門前で、一緒に帰る約束をしていた友達を待っていました。そしてその時、急な夕立に私はつい地下道に身を隠しました。
 雨は激しく振りましたが、直ぐに止むだろうと思って水の落ちてこない真ん中よりで待っていました中はけっこう薄暗くて、夕方ともなると不気味な感じもしました。
 ……アナタも夕方に地下道に行ったことはありますか? まだなら一度は体験してみるといいかもしれませんよ。
 壁に寄りかかってボーッとしていた私は、正面の壁が少しずつ色を変えて行くのを見てしまったんです。……だんだんと色を変えて行く壁は、そのうちにはっきりと人の形を成しているように見えました。
 ……その人の形はどんな風に見えたと思いますか?
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