学園怪談
ユウリは何も言葉を返すことが出来ず、ただ晶が走り去るのを見つめていた。
カバンに残されたペアのキーホールダーが寂しげに揺れていた。
 それからの二人は全く会話をしなくなり、お互いに目も合わせないような生活を送っていた。母親どうしも二人は思春期だから仕方ないと割り切って、特に何も言って来なくなった。
……それから2年もの月日が流れ、ほとんど会話も無いままに二人は時を過ごした……でも、そんな夏休みのある日。
……不幸な出来事が起こった。受験勉強の為に塾通いしていた晶は、帰る途中で酔っ払い運転の車に撥ねられ、意識不明の重態になってしまったのだ。
「晶! 晶! あきらああああ!」
 ユウリは集中治療室の外で泣いていた。晶が死にそうだと聞いて、いてもたってもいられなくなり、母親と一緒に病院にかけつけたのだ。面会はもちろん出来なかったが、ガラス越しに晶を確認することは出来た。晶はたくさんの医療器具に囲まれ、生命維持装置でかろうじて一命をとり止めている状態だった。
 横たわる晶は手にしっかりとキーホールダーの片方を握らされていた。
「あ、あれは……」
「あれはね、晶が中学に入学以来、ず~っと大事にしてきたお守りなの。努力して、願い続ければ、強い自分でいられるって……」
 横で疲れた顔をしていた晶のお母さんが言った。
「……晶……」
 その日、ユウリは家に帰るとキーホールダーの片方を握り締めて祈った。
「晶! 晶! 死ぬなよ! 死なないでくれよ!」
 ユウリはその夜、夢を見た。
 目の前に晶の姿がある。
「あ、晶。よ、よかった。助かったんだね」
「ユウリ……」
 笑顔のユウリに向かって、泣き顔の晶が泣きついてきた。
「ゴメン……ゴメンねユウリ……私が弱かったばかりに。ユウリを傷付けちゃって……本当にゴメンね」
 産まれてから2度目に見る晶の涙だ。
「晶は弱くなんてないよ。俺をいっぱい助けてくれたじゃないか」
 ユウリの言葉に涙で頷くと、晶の姿が薄れていき、形もおぼろげなものになっていく。直感的にユウリは分かった。晶の存在が消えそうになっているということに。
「嫌だ! 晶! 死なないでくれ! 俺を一人にしないでくれよお!」
 伸ばしたユウリの手に、晶の涙が零れ落ちた。
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