学園怪談
「……ユウリ……強くなって……私を……守って……」
「守る! 守るよ! 俺の好きな、大好きな晶のことを、強くなって必ず守るよ!」
「……ユウ……リ……」
 そして次の瞬間、ユウリは自分の部屋で虚空に手を突き出したままの自分に気がついた。
「……俺はいったい、今のは……夢? いや、夢じゃない!」
 ユウリの腕には晶の流した涙が確かに残っていた……。
 ……そして、それから7ヵ月後。
 ユウリは卒業式の日に校庭を眺めながらボーッとしていた。
 そんなユウリの背中から不意に声がかけられた。
「いろいろあったなぁ……って思ってたでしょ?」
 そこには……笑顔の晶が立っていた。
「なんだよ、人の心を読むなよ」
「以心伝心よ」
 晶はあの夜以降、奇跡的に持ち直し、少しずつだが順調に回復していった。そして年が明ける頃には元通りに生活を送れるようになり、志望校にも合格して4月からはユウリと同じ高校に通うことが決まった。
「お前が事故に遭ったときはどうなるかと思ったよ」
「ふふふ、あの時ね。色々と嬉しかったな~ユウリの言葉。凄く強かったよねユウリ」
 ユウリは後から知ったことだが、晶も同時刻に意識がない中で、ユウリの意識と繋がって会話していたらしい。
「強かった? 俺が?」
 ユウリの疑問に晶は照れたような笑顔で言った。
「だって『好き』なんて言葉、私にはずっと言えなかったもん。たった一つの言葉だけど、誰かに伝えるにはもの凄い勇気と強さが必要なんだよ」
「そうかな。ははは。あの時は無我夢中だったからな。俺も少しは強くなったのかな?」
 晶はいつの間にか成長して自分よりも背が大きくなったユウリに頷いた。
「うん。強くなった。とっても」
「じゃあ、あの時の約束どおり、俺ももっと強くならなくちゃな……」
「あの時の約束?」
 すると、突然ユウリは晶を黙って抱きしめた。豊かさを増した晶の胸がユウリの厚い胸板に軽く押しつぶされる。
「俺とこれからもずっと一緒にいてくれ。晶のこと……心から愛してる」
「…………うん」
 震える二人の唇がゆっくりと重なった。
 この日、ユウリは産まれて3度目に見る、晶の涙を頬に感じていた……。
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