学園怪談
「ああ、確かにそうだったね、俺は足元の水溜りの冷たさで跳ね退いたんだった」
 言われてみれば温度差は確かに不自然だ。
「でしょ、暖かくないまでも極端に冷たいはずはない。だから水はおしっこじゃなかったんだよ。つまりね、ドアのカギは氷で固定されてかからないようになってた訳さ。まあ、よくある時間差トリックってやつだね。これなら氷が溶けた後で、勝手にカギがかかる。マリオは氷が溶けきる前に部屋に入っちゃったから閉じ込められたって訳」
 なるほど、それなら納得がいく。
「でも、それでなんでシェフが犯人なのさ、他にも犯行が可能な人はいたんじゃないかい?」
 俺の言葉に小松っちゃんは首を振った。
「いや、シェフは自分で証明したじゃないか。夕食後、『厨房には誰も来なかった』ってさ。犯行後、厨房に戻った彼は、水を取りに着た小峰さんに発見してもらうことでアリバイを手にいれた。この屋敷には冷凍庫は厨房にしかない。だからシェフ以外、誰も氷を持ち出すことなんて出来ないってことさ」
 小松っちゃんの推理に納得したように翔一が頷く。しかし、ひとつ反論をしてきた。
「でも、氷ならシェフがいない間に厨房から盗み出すことも出来るんじゃないかな? それに、氷一個くらいならどうにでも用意できると思うんだけど」
 確かにそうだ。氷をスーパーや、コンビニで買ってさえくれば、犯行時刻にアリバイのない全ての人に容疑をかけることだって可能だ。
「いや、それはないな」
 自身たっぷりで小松っちゃんが言った。
「なんでそう思うんだい?」
 俺の問いかけに、小松っちゃんは息も絶え絶えになっているシェフを見ながら言った。
「本当は氷も溶けきって証拠は何も残らないはずだったんだ。それをマリオが部屋に入り、鳴き声を上げてしまったために発見が早まってしまった。それが最大の誤算だった。もしかしたら誰かがドアの水の事に気がついてしまい、アリバイが崩れるかもしれない。犯人は必死だったろうよ」
 俺の頭の中に、部屋に向かうみんなに紛れて、ピンチをどう切り抜けるか思考を巡らす犯人の苦悩の姿が浮かんだ。
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