学園怪談
「不幸中の幸いだったのは、マリオがお漏らししたために、氷の溶けた後がお漏らしによるものと勘違いされた事だった。しかもドアはどっちに開くドアだったか覚えてるかい?」
 小松っちゃんの問いかけに俺は記憶を振り返る。
「ええと、確か内開きじゃなかったかな」
「そう。その通りだよ。カギに氷がしかけられていたなら水滴は床だけじゃなくてドアノブとかにも残っているはずだよね? でもね、現場の部屋を出てゲストルームに戻る時に最初にドアを開けたのは僕だったんだけど、水滴なんてドアには全く付いてなかったんだよ」
「ということは?」
「何者かが拭き取ったに違いないのさ。そして、そんな作業を部屋に入ってから誰にも気づかれずに出来る人は一人しかいない。それは……最後に部屋に入った人物……」
 もう誰も小松っちゃんの推理を疑わなかった。
「そんな、シェフ、何で、何であなたが……」
 息も絶え絶えにシェフは言った。
「坊ちゃん……お父上は、最近のスランプを気にされて……若い教え子の絵を、自分の作品として高値で売っていました……私は、自分の絵を恩師に取り上げられ……無名のまま自殺に追い込まれた若き画家の卵たちの……親の一人です」
 シェフは涙ながらに真実を打ち明けた。
 翔一は気づいていた。最近の父はスランプであったこと、そして絵などまるで描いていなかったことを。
「お父上に伝えてください……思い出させてあげてください……坊ちゃんから……絵は尊い、個人の、それぞれの画家の魂の叫びであることを……」
 シェフはそこまで言うと、ガックリと事切れた。
「シェフ……シェフ、シェフ~~~~!」
 翔一の悲痛な叫びだけが部屋に響いた。
……こうして、一人の名前も与えられなかったシェフの命と引き換えに、事件は幕を下ろした。

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