学園怪談
 サングラスを外すと、興奮した秋山君と先輩が僕を見つめていた。
「な、見えたろ?」
 先輩がニヤリと笑ってサングラスを取り上げた。
「あれは一体……?」
 僕達の疑問に先輩が笑顔で答える。
「あれはな……霊体だ。このサングラスはな、幽霊を見ることが出来るサングラスなんだよ」
 先輩の言葉は信じ難い内容ではあったが、先程の光景を見せられては素直に認めるしかなかった。あれが嘘やまやかしだとは思えない。サングラスには特別な仕掛けは何もないようだし、秋山君いわく、浮遊していたものには顔もはっきりと見てとれたらしい。僕はそこまでは見られなかったけれど、先輩のイタズラでないことだけは確かに分かった。
「す、凄いですよ富士見先輩! これを何処で手に入れたんですか?」
 秋山君は先輩に尊敬の眼差しを向けて尋ねた。
「これか? これはな、昨日散歩をしていたら、怪しげな占い師の婆さんに会ってな、その人から購入したんだ。なんでも旅をしながら占いをしたり、こういうアイテムを売ったりしてる人らしいんだけど」
 そんなまがい物かもしれない商品をよく買ったものだが、実際に見えるのだから凄い。
「ま、そんな訳でよ、これからは俺の事は炎の霊媒師とでも呼んでくれよ」
 先輩はすっかり上機嫌で、僕達に何度もサングラスを貸してくれた。
 僕と秋山君もそれから何度かかけさせてもらったが、それをかけて窓の外を見ると、様々な幽霊が見えた。
 ……首のないヨロイのようなものを纏った武士らしき幽霊。今にも消えてしまいそうに形のあやふやな霊体、片脚を無くし、片方の足で引きずるように歩く女の幽霊。
 それらの幽霊はただ見えるだけで、特に誰かに襲いかかるでも暴れるでもなかった。そんな安全でスリリングな遊びを僕達は楽しみ、その夜は更けていった。
 ……深夜。
 ちょうどみんなが寝静まった頃、僕は何かのうめき声のようなものを聞いた気がして目を開けた。
「……ううう……うんん」
 かすかに室内から苦しそうな寝言が聞こえてくる。
 
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