学園怪談
「いたあい!」
「いててて、ちょっと大丈夫? 智子!」
「うん……足が、足が動かない!」
 藤野の右足は突然痙攣したかのように震え始め、立ち上がることが出来なくなった。
「ちょっと大変! 先生! 先生~!」
 保健室に運ばれたものの、対処できなかったために救急車も呼ばれ、放課後の校内は一時大騒ぎとなった。
 ……次の日。
 大事をとって一日入院した藤野は、母親と共に整形外科の医師の前に座り、レントゲンの写真を見せられていた。
「……先生、私の足は大丈夫ですよね?」
 もう何らかの処置のおかげで震えは止まっていた。少し動かすのが億劫に感じるが、いつもどおりの自分の足であることは窺えた。
「あなたの右足には……菌が入り込んでしまっています」
 医師いわく、バイ菌などのウイルスは風邪や病気だけが怖いのではなく、骨や体の臓器などに入り込むことが厄介だという話だった。
「それでは……薬とか手術とかが必要なのでしょうか?」
 母親が心配そうに医師に尋ねるが、医師はレントゲン写真を黙って見たまま、しばらくは黙っていた。
「実は……お嬢さんの足の中にいる菌は、普段我々が見かけるような菌だけじゃないんですよ。血液検査などでも確認をしましたが、どうも今までのものとは違う、新しい種類の病原菌のようなのです」
 その言葉が染みとおるまでに時間がかかった。
「な、治るんですよね? 私の足は……大丈夫ですよね? 今度の春の大会は最高学年として始めて出る大事な大会なんです! 先生、お願いします! 私を治して下さい!」
 藤野は医師にすがりつき、母親も医師に深々と頭を下げた。
「全力は尽くします。なに、医学は日々進歩してるんです。きっとお嬢さんの病気も我々が治してみせますよ」
 ……それから、藤野の病魔との闘いの日々が始まった。
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