学園怪談

「さあ、歩いて！　ゆっくりゆっくり！　そうそう、イチニ、イチニ」
　藤野は大きな大学病院に移され、検査とリハビリを続ける毎日を送っていた。足は回復するどころか徐々にひどくなり、冬休みを過ぎ、春の大会が目前に迫った頃にはリハビリを続けなければ歩くことさえも難しくなる程だった。
「先生……私、私の足は治るんですか……？　春はだめだったけど、夏の、３年としての最後の大会には出たいんです」
　体が蝕まれ、心が折れそうになりながらも、藤野は懸命にリハビリを続けた。
　彼女を支えてくれる母親、そして、毎日のように見舞いに来てくれる優しい友人達の支えが彼女を奮い立たせていた。
「頑張って、頑張って。私は夏の大会に出るんだ！」
　藤野は人の２倍も３倍もの努力を重ね、足の回復を願った。
　そしてある日、藤野が１日のリハビリスケジュールを終えて病室で休んでいると、担当医と母親が入ってきて告げた。
「智美さん。あなたの右足の手術をすることに決定しました」
　医師の発言に困惑の表情を見せる藤野を、母親が笑顔で諭した。
「大丈夫よ。先生もあなたのために一番いい方法で治療してくれるのよ」
「でも、でも、足を手術して、夏の大会に間に合うのかなあ？」
　何よりもバスケが出来なくなってしまうのが怖かった。高校への進学のためじゃなくて、仲間たちと楽しいバスケの試合をして、活躍したいという想いが強かった。
「私、本当に元気になれるの？」
「大丈夫よ。大丈夫だから……」
　怯える娘を抱きしめて安心させる母親。医師もニッコリと微笑み、手術に全力を尽くすことを誓った。
　……そして、手術は成功した。しかし藤野は術後３日間の間高熱にうなされ、重たく感じる自分の右足を母親に擦ってもらっていた。
「……お母さん。足が、右足が痛いよ……」
「大丈夫、大丈夫よ……。ほら、お母さんが擦ってあげるから」
　しばらく擦ってもらい落ち着くものの、一晩に何十回も藤野は無意識に助けを母に求めていた。