学園怪談
　……。
「でもね、藤野は意識を取り戻したその日の夜、自殺した」
　大ちゃんさんの突然の言葉に私は虚をつかれた。
「え、なんでですか？　だって、手術は成功したんですよね？」
「……ああ。彼女の右足切断の手術がね」
　みんなが思わず息を飲んだ。
「そんな、だって彼女は３日間も右足をお母さんに擦ってもらってたんでしょ？」
　紫乃さんも信じられないといった表情で聞いた。
「藤野は……足を切断されていたことを知らなかった。手術は成功したものの、彼女の意識の中では右足の手術は成功していた。だから早くバスケがしたい気持ちから足のあった所が疼いたのかもしれないな」
　大ちゃんさんは同じスポーツを愛する者として耐え難い心持ちのようだ。
「今ではインフォームドコンセントが義務付けられているから、患者は自分の病状を正確に知る義務があるよね。でもバスケを命としてきた彼女が、もし足の切断手術を申し出られたらきっと手術を断っただろうね。藤野さんのお母さんもそれが分かっていたから相談なしで手術を決行したんだろうね」
　淳さんが専門用語を交えながら言った。
「そうだね、確かに彼女には知らされていなかったようだよ。それに、今でも子供の病気について真実を告げない親は多いらしいよ」
　大ちゃんさんはふと、体育館の方を見た。
「何か見えるんですか？」
　斎条さんが窓を振り向き、私たちもそれにつられて体育館を見た。
　……特に何も見えないが、それでも大ちゃんさんは静かに言った。
「今でも藤野は体育館で一人、シュート練習をしているらしいよ。同じバスケ部員が放課後の体育館で床を弾むボールの音を聞いたらしい。それに片足のない女の幽霊も目撃されているんだ」
　私たちの耳に、バスケのボールの弾む音が聞こえてくるような気がした。
　私は夢と、生きる希望を失った憐れな少女の事を想い、胸に切ない気持ちを抱いていた。今の私には藤野さんのように命がけになれるような何かがあるだろうか？

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