学園怪談
第46話 『桜の精霊』 語り手 小野田紫乃

 次は紫乃さんの番だ。気づけばもう46話目だ。それに時間も3時を少し回った。世が明ける頃には怪談も終わってしまうのだろうか?
「さあ、私の話をするわね。校庭の隅。裏門の近くに生えている大きな桜の木を知ってるよね? あの木にはね、木の精霊が宿っているんだって」
「木の精霊ですか?」
 私の問いかけに頷く紫乃さん。
「気のせいじゃねえの?」
 お決まりのシャレを入れた徹さんを無視して、紫乃さんは話し始めた。
「そう。木っていうのは色々な人々の想いが込められていてね。木に宿る精霊がその人々の想いをいつまでも大事に支えてくれるの」
「へえ、何かいいですねそういうの」
 私が素直に納得すると、なぜか紫乃さんは複雑な表情を見せた。
「これから話すのはそんな木の精霊と深く関わった、ある男の子のお話」
 
 ……。
 今から……7年くらい前かな? 徳山祥一郎っていう男子生徒がいた。勉強もスポーツも人並み、ルックスやセンスも並で目立たない普通の子。小学生の頃から好きだった女の子に告白する勇気もない、そんな比較的どこにでもいるような内気な男の子だったんだけどね。そんな彼も……。
「俺、俺、俺……お、お、おおお、お前が好き……なんだけど……」
 祥一郎は1年生の終了式の後、ずっと好きだった女の子を呼び出して告白した。彼にしてみれば、今まで生きてきた人生の中で最も勇気を振り絞った瞬間だった。
 しかし……。
「ごめんね。徳山君のことは嫌いじゃないけど……、そういう対象に見たことなかったから……本当にごめんなさい」
 祥一郎の初恋はあえなく散った。
 別にこの事件が学年で話題にされる程、彼も、そして、彼をふった女生徒も学園では目立った存在ではなかったので、祥一郎の告白というイベントは始めからなかったかのように毎日が過ぎ去った。
「はあ……」
 祥一郎は校庭の例の桜の木に寄りかかってボンヤリしていた。
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