学園怪談
 自分の告白はいったい何だったのだろうか? 告白をした日はあんなにドキドキして、ふられたけれど何だか自分が少し大人になったような満足感もあったのに、今あるのは虚無感だけだ。まだ告白する前の、淡い恋心を持って生活していた頃の方が張り合いがあったかもしれない。
 祥一郎は呆けたまま空を眺めていた。
大きな木の枝と、その隙間からキラキラと射し込む光の心地よさが彼の心に僅かばかりの元気を運んでくれる。
「はあ……」
 祥一郎は再び、今日何度目かになるため息をついた。
『……退屈してるみたいね』
「えっ!」
 不意に声をかけられた気がして、キョロキョロと辺りを見回す祥一郎。しかし、自分以外には誰もいない。
「……気のせいか?」
 不思議そうに視線を戻すと。
『こんにちは……私が見えるかしら?』
「えっ! あ!」
 祥一郎の右側、こちらを向いてニッコリと微笑みかける何者かの姿があった。
 ……その姿はね、一人の人間の女性のような形をしていたそうなの。でも明らかに人間でない事はわかった。だって彼女の後ろ側の景色が透けて見えるんだもの。まるで映像機から映し出された幻影であるかのように、あやふやではあるけれど、ちゃんとした女性の姿をしていた。彼女は服を何も着ていなくて裸のように見えるけど、光の加減なのか別におかしくない……どころか、それがごく自然な姿のようにさえ思えた。
『私が見えるみたいね』
「あ、あ、き、君は……いったい」
 あまりに突然の事で混乱したものの、祥一郎は彼女に惹かれるようなものを感じ、逃げることも助けを求めることもせず、黙って彼女を見ていた。
『私はこの木に宿る精霊よ……あなたが寂しそうにしていたから、つい話しかけてしまったの』
 自分を木の精霊と名乗った彼女を祥一郎は疑わなかった。
「あ、はじめまして、俺は祥一郎、徳山祥一郎です」
 祥一郎は少しばかりドギマギしながら精霊に向かって軽く頭を下げた。
『よろしくね』
 透き通る、聞いていて心地よいトーンの声だった。
……そんな不思議な出会いをした祥一郎は、その日からたまに桜の木の精霊の元を訪れるようになった。
< 209 / 235 >

この作品をシェア

pagetop