学園怪談
「だめ……かな?」
 今にも泣きそうな女の子の顔を見ているのが辛くなり、祥一郎は咄嗟に返事をしてしまった。
「あ、う、うん。いいよ、俺でよければ」
「……ほ、本当に? ……よかった……」
泣きそうになりながら祥一郎に抱きつく女の子を受け止めつつ、祥一郎はこの事をサクラが見ているかもしれないという心配ばかりしていた。
……その日の夜。
「なあ、サクラ。いるんだろう? 出てきてくれよ」
誰もいない真っ暗になった校庭。開花に向けて蕾をつけ始めた桜の木の下で、祥一郎はサクラを呼んだ。
『……何? 私はこの時期開花に向けて忙しいの、あんまり祥一郎君の相手をしていられないわ』
 サクラは明らかに不機嫌そうに祥一郎に言葉を投げかけた。
「俺さ、困ってるんだ。サクラも見てただろう? 昼間の事件さ」
『見てたわよ。良かったじゃない彼女ができて。もう私の支えもいらないでしょう? これからは人間どうし、仲良くしなさいよ』
 あまりのぶっきらぼうさに祥一郎もカチンと来た。
「なんだよその言い草は! サクラは俺が誰と付き合っててもどうでもいいのか?」
 祥一郎は気づいていた。自分が好きなのはサクラであり、告白をしてくれたクラスメイトではない事。そして、サクラに、この自分の気持ちを知ってもらいたいということを。
『……知らないわよ。私とあなたは住む世界が違う。一緒になんて……なれないもの。とにかく、もう私の前に現れないで。これから開花までの間は、私も今のように理性を保てる自信がないわ。祥一郎君……さようなら』
 そう言い残すと、サクラはスーッと木の中に溶け込むようにして消えた。
「な、おい! サクラ! サクラあああ!」
 祥一郎は叫び続けたが、サクラは現れる事はなかった。
 ……それからどれだけ日にちが過ぎただろうか? 祥一郎は毎日サクラの元を訪ねたが、彼女は最後の言葉どおり、祥一郎の前に姿を現すことがなかった。
 しかし、それでも祥一郎は毎日、毎晩サクラの元へ通い続け、サクラの名を呼び続けた。
「サクラ、お願いだ。出てきてくれ。俺は……俺は……」
 祥一郎は付き合いだした彼女に早々と別れを告げ、同時にサクラへの想いの深さと、自分の軽率な態度に気がついた。もうサクラさえいれば誰もいらない。もう一度、サクラの透き通るような声を聞きたかった。
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