学園怪談
「ほ、ほら、ここにいてくれたら好きなチョコバーを毎日いっぱい買ってきてあげるからさ~」
 必死の言葉よりも、マコトはチョコバーという響きに反応した。
「ほ、本当け? オラに毎日チョコバーを買ってくれるだか?」
 そこには子供の会心の笑顔と、媚を売るような目があった。
「もちろんよ! あなたがいてくれたら私もハッピーだし、あなたも毎日チョコバーが食べれて幸せでしょ? 古いしきたりなんか忘れて、ここで一生私にチョコバー貰った方が幸せよ~。次の家の人はチョコバーなんかくれないかもしれないしさ~」
「んだ! んだ!」
 もはや交渉は成立したも当然だった。
「じゃあ、決まりね! これからもよろしく!」
「おぬしも悪よの~」
 何処で覚えたのか、マコトはチョコで黒く染まる歯を見せてニタリと笑った。
 それから、座敷わらしを手中にした美鈴先生には様々なご利益が訪れた。
 道端でお金を拾ったり、懸賞ハガキが当たったりといった小さなラッキーは頻繁に起こった。歩いていて目の前でひき逃げの車のナンバープレートを覚えていて、犯人逮捕に協力し、警察から感謝状をもらったりしたこともあった。
「あなたが来てくれてからというもの、本当に私はツイてるわ! はいお礼!」
「おお~、よかっただなや。オラも幸せだ~」
 毎日のようにチョコバーを食べ続け、座敷わらしはいつのまにか成長していた。その顔つきは子供の可愛らしさは消え、小太りな中学生のような感じに変わっている。
「ねえ……あのさ。もう少し大きな幸せはダメ?」
 ささやかな幸福が続き、それに慣れてしまった美鈴先生の心の中に欲望の二文字が湧き上がった。
「ええよ。じゃあ、うんとお菓子をくれるか?」 
「わかったわ。お願いね」
 ……そして、それから美鈴先生のツキは更に多く、内容的にも大きなものへと変わって言った。
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