学園怪談
「……具合でも悪いの?」
そうではなかった。嗅覚がないということは食べ物の匂いを嗅ぐこともできない。よく風邪なんかをひいて鼻が詰まったりすると、何を食べても味気なく感じてしまうものだ。菅沢君はまさにそれで、給食はおろか、家での食事についてもほとんど味の濃いものを食べることで補ってきたらしい。
……ある日。
「うわ、菅沢。お前さ、ちゃんと頭を洗ってるのか? すごく臭うぞ。口もくせえし」
彼のクラスの男友達が菅沢君に言った。
「え、そうかな。別に大丈夫だろ」
実はクラス中が同じ意見だった。菅沢君は臭わないことをいい事に身だしなみがいいかげんになり、体臭や口臭など耐え難い臭いを発しているのに気がついていない。足からは生ゴミでも踏んづけてきたのか、非常に不快な臭いを教室中に充満させていた。
「もう、サイテー! ちょっと近寄らないで!」
さすがに一人が文句を言い始めたら他の生徒もグチり始めた。
「出てけよ! お前マジでくせえよ!」
「やだやだ。本当に臭うよ~。耐えられない」
「俺、吐き気してきた」
菅沢君もそこまで言われてさすがにいたたまれなくなったようで、その日を境に学園に来なくなった。
クラスのみんなは普段と変わらない毎日を送っていた。一人いなくなったところで、それは登校拒否児が一人増えただけ。何も変わらない日常が過ぎていくだけ。
……そして、菅沢君が学園に来なくなって十日。私は3日に一度、彼の家に電話をかけました。別に私たちが何か特別な関係とかいう訳ではなくて、席が隣のよしみで先生が連絡事項の言伝を私に頼んだだけという理由です。……まあ、個人的に嗅覚を失った彼のその後が気になっているということもあるんですけど。
『……斎条か……俺さ、ドリアンを試してみたよ。地獄の匂いって噂だったけど何にも感じなかったよ。ははは』
それが最初の電話の内容だった。そして、次は。
『……斎条。人間の死臭っていうのはさ、本当に耐え難いものらしいじゃん。血のむせ返る臭いとか腐臭とかさ。あれだったら俺でも臭うことができるのかな? ……あ、お帰り父さん……』
二度目の電話で彼のやつれたような声、そして気になる含みを残す内容は私に胸騒ぎを与えた。
そうではなかった。嗅覚がないということは食べ物の匂いを嗅ぐこともできない。よく風邪なんかをひいて鼻が詰まったりすると、何を食べても味気なく感じてしまうものだ。菅沢君はまさにそれで、給食はおろか、家での食事についてもほとんど味の濃いものを食べることで補ってきたらしい。
……ある日。
「うわ、菅沢。お前さ、ちゃんと頭を洗ってるのか? すごく臭うぞ。口もくせえし」
彼のクラスの男友達が菅沢君に言った。
「え、そうかな。別に大丈夫だろ」
実はクラス中が同じ意見だった。菅沢君は臭わないことをいい事に身だしなみがいいかげんになり、体臭や口臭など耐え難い臭いを発しているのに気がついていない。足からは生ゴミでも踏んづけてきたのか、非常に不快な臭いを教室中に充満させていた。
「もう、サイテー! ちょっと近寄らないで!」
さすがに一人が文句を言い始めたら他の生徒もグチり始めた。
「出てけよ! お前マジでくせえよ!」
「やだやだ。本当に臭うよ~。耐えられない」
「俺、吐き気してきた」
菅沢君もそこまで言われてさすがにいたたまれなくなったようで、その日を境に学園に来なくなった。
クラスのみんなは普段と変わらない毎日を送っていた。一人いなくなったところで、それは登校拒否児が一人増えただけ。何も変わらない日常が過ぎていくだけ。
……そして、菅沢君が学園に来なくなって十日。私は3日に一度、彼の家に電話をかけました。別に私たちが何か特別な関係とかいう訳ではなくて、席が隣のよしみで先生が連絡事項の言伝を私に頼んだだけという理由です。……まあ、個人的に嗅覚を失った彼のその後が気になっているということもあるんですけど。
『……斎条か……俺さ、ドリアンを試してみたよ。地獄の匂いって噂だったけど何にも感じなかったよ。ははは』
それが最初の電話の内容だった。そして、次は。
『……斎条。人間の死臭っていうのはさ、本当に耐え難いものらしいじゃん。血のむせ返る臭いとか腐臭とかさ。あれだったら俺でも臭うことができるのかな? ……あ、お帰り父さん……』
二度目の電話で彼のやつれたような声、そして気になる含みを残す内容は私に胸騒ぎを与えた。