学園怪談
『バタアアアン』
「きゃあ!」
 電子音がより近く聞こえたかと思った所で何かの倒れる音が聞こえた。
「ちょっと! ちょっと菅沢君! 大丈夫なの菅沢君!」
 私の受話器を持つ手は、なぜか震え始めていた。
『……さ……じょう……はあはあ……く……し……い』
 その言葉を最後に、受話器からはけたたましい電子音の音のみが聞こえていた……。

 ……。
「菅沢君は死にました。死因は一酸化炭素中毒による中毒死でした」
 斎条さんは少し節目がちに語った。
「中毒死ですか……」
 私の言葉に、斎条さんはそれ以上の質問をしなくても良い程の的確な説明をしてくれた。
「あの電子音はガスの警報装置のものだったそうです。今の都市ガスは液化天然ガスが主流なので事故は少なくなったそうですが、彼の住んでいた昔ながらのアパートではまだ一酸化炭素を含んだプロパンガスだったようです。無色無臭のこのガスには、ガス漏れに気づくようにあらかじめ臭いがついていますが、酔っぱらった父親、そして嗅覚のない菅沢君は発見するのが遅かったということです」
 ガス漏れか……。一酸化炭素中毒は恐ろしいものだと聞いたことはある。なんでもひと吸いしただけで倒れてしまうこともあるとか。
 私は菅沢君が少しずつ死に向かう様子、そしてそれを受話器越しに感じていた斎条さんの生々しい体験を思い、明日にでも耳鼻科に行って鼻炎を診てもらうことを固く心に誓った。

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