学園怪談
 彼が階段を下りるたびに、体育館の中の温度が少しずつ下がっていくような錯覚を覚えたよ。彼が階下にたどり着くよりも早くから、僕の腕は寒くもないのに鳥肌でいっぱいだった。
 ……10……11……12……。
 最後の一段を目前にして彼は振り返った。その目は僕に助けを求めるかのような泣きそうな目だった。
 僕は落ち着かせるつもりだったのか、その目を見て黙って大きく頷いた。
 彼も僕の顔を見て頷くと、最後の一段を降りた。
 ……13!
 村木君は階段を降りきると、右奥の倉庫代わりになっているスペースの方を見て固まっていた。
 そして、そっちの方に向けて言った。
「殺して! アイツを! 浦辺を殺して下さい!」
 怯えるように、でも大きな声で村木君は叫んだ。
 僕のいるところからは彼の姿しか見えなくて、倉庫の中は覗けなかった。でもね、下には壁の一部が鏡張りになっている所があるんだよ。体育でダンスとかのポーズを見たりするためのものだと思うけどね。それには……。
 ……羽の生えたガイコツが映っていた。でもね、そのガイコツには目が無いのに真っ赤な光が宿っていて、村木君は魅入られたようにその目を見ていた。はっきりとは見えなかったんだけど、とても禍々しい雰囲気だけは伝わってきた。
村木君はその後も何かボソボソと話していたみたいだったけど、僕は何だかガイコツが鏡越しに僕を見ているような気がしたもんだから、慌てて離れた場所に下がったんだ。
 ……それから間もなくして青白い顔をした村木君が上がってきた。
「大丈夫だったのかい?」
 僕は鏡をちらちらと見ながら村木君に聞いた。
「……大丈夫です。これで浦辺は……」
 そのまま彼は呟くようにして体育館を後にした。
 僕が最後に鏡を見た時、そこには倉庫の一部が映されていただけだった。
 ……そして次の日、学園の生徒が一人死んだ。なんでも帰り道で何者かに首を斬られたという事だった。その生徒は……村木君のクラスメイトの浦辺智之君という生徒で、彼は村木君や他のおとなしい生徒を酷くイジメていた人物だった。
 ……彼の、村木君の願いは確かに聞き遂げられた。『13時間以内に浦辺が死ぬ』という一つの願いがね。
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