学園怪談
「なあ、誰かそこにいるんだろう?」
 しかし、木村の声に誰からも返答はない。
……シャアアアア。
 シャワーの音だけが室内に聞こえ沈黙が流れたが木村は直ぐに言った。
「あー、分かった。吉野だろ! わかったぞ、驚かそうっていっても、そうはいかないぜ!」
シャッ!
勢いよくカーテンを開く音がした。
……その時!
「うわああああ! で、出たああああ!」
 木村の声だった。
 恐怖に上げた大声はシャワー室に響き渡り、その後、木村の個室スペースにバタバタと何か入り込んでくるような音。
 俺と、隣の波多野は突然のことに何も言えず、黙って事の成り行きを窺った。
 やがて、何事もなかったかのように、静まり返ったかと思うと、再び人の気配が俺達のカーテンの向こう側に現れた。
「おい、木村! 木村!」
「返事をしろ! 木村!」
 木村からは何の返事もなく、カーテンの外の気配は今だに消えない。
「ま、まさかコレって……先輩達の言ってた……」
「おい波多野! ぜったいにカーテンを開けるなよ!」
 咄嗟に俺は叫んでいた。俺はまだ頭に泡をつけたままで、目もつぶっていたからカーテンの方を見ることもできなかった。
 人の気配はカーテンの前を歩きながらこちらの様子を窺っているかのようだった。
 ……そして、声がした。
「……開けておくれ……」
 しわがれた老婆の声だった。恐怖が俺たちの体を走り抜けた。こんなところに婆さんが一人で来るわけがない。絶対にカーテンを開けたら良くないことが起こるのがわかった。
「ダメだ、絶対に開けるなよ波多野! わかったか」
「ああ……ああああ……」
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