学園怪談
 ガタガタと波多野の震えが振動となって伝わってきたように思えた。いや、あれはもしかしたら俺自身の震えだったのかもしれない。
「開けろおおおおおお!」
 突然、狂ったように大きな声で老婆が怒鳴った。
 俺は恐ろしくて、早くシャワーを浴び終えようと必死に髪を洗い流した。なまじ目が見えない分、耳で感じる現実があまりに恐ろしかった。
「もうだめだ! ああああああ!」
 突然シャワーをそのままに、波多野がカーテンを開けて飛び出した気配があった。
「お、おい、波多野!」
「ぎゃあああああ!」
 すぐさま波多野の絶叫。
俺は恐ろしくて恐ろしくてもう本当に泣きそうだったよ。この悪夢から救い出してくれるなら、本当に何を代償にしてもいいくらいにね。
そして、人の気配は俺のカーテンの前に止まった。
俺は必死で髪を洗い流していたけど、ぬるっとした水の感触に異変を感じて強引に目を開けた。
……俺の手は血まみれだった。シャワーのお湯に混じって、血が頭に流れ落ちてきたんだ。
恐る恐る上を見ると……カーテンの上に首だけ出した血まみれの老婆の顔があった。
「……!」
俺はもう驚きと恐怖で声も出なかったよ。人間ってのは本当に驚いたり恐怖を感じた時には一瞬だけど悲鳴はおろか、呼吸すらも止まるもんなんだな。
 そして、老婆はしわくちゃな顔で一言いった。
「開けておくれ……」
俺はもう髪のことなんて気にしてる余裕はなかった。慌てて目の前にあったシャワーのレバーを閉めたよ。
すると、老婆の顔は掻き消えるように消えていった。
俺はその場にうずくまって、荒い呼吸を繰り返していたよ……。

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