学園怪談
そして、俺はいつも通りの海パン姿で、小松っちゃんはなんとビックリ、股間がもっこりと強調された競泳用パンツだ。
「小松っちゃん、水泳部でもないのに何でこんな物を持ってるんだ?」
「何事も形から入るのが大事なのだよ徹君」
 水泳部が何人か練習する中、迷惑にも俺達二人は水浴び気分で入水した。小松っちゃんは背が150センチの小柄な男であり、泳ぐことも出来ないのでアヒルの形をした浮き輪を装備している。競泳用水着とのギャップが悲しい。
「よし、水の中に潜るんだ徹君。もしかしたら手がかりが掴めるかもしれない」
「小松っちゃんはどうするんだ! 浮き輪じゃ潜れないじゃないか」
「僕はここで怪しい奴がいないか見張る。健闘を祈る」
 その言葉に情けないものを感じつつも俺は水中眼鏡をかけて潜った。
 ……!
「ぶううううう!」
 俺はすぐさま水面へ顔を出し、慌てて逃げるように泳いだ。
「がぶぶぶぶ」
 バタバタバタバタ。
「ああ、小松っちゃん!」
 俺が慌てて水面に飛び出したせいで浮き輪がひっくり返り、彼は足だけを出してバタバタと溺れていた。
「だ、大丈夫かい? ごめんよ」
 俺は慌てて浮き輪をひっくり返した。カワイイアヒルの顔と一緒に、その首にしがみつく様に小松っちゃんが現れた。
「ゲホゲホ、ヒクッ、ゲホ。絶対に、ひっくり返らないって、ヒック、ゲホゲホ、ショップのオヤジが言ってた……ヒクッヒクッのに……」
 小松っちゃんは泣きべそをかいてしゃっくりを上げていた。
「ご、ごめんよ小松っちゃん」
「怖かったヒクッ、水がヒクッ、ゲホゲホ、鼻とかにも入ってきてヒヒヒックツ、怖かったよお、ヒクヒク」
 まるで子どもだ。でも俺は人目も気にせず彼の頭を肩に乗せ、シャックリと涙が治まるまで背中を撫でてやった。
「……で、いったいどうしたんだい? 潜ったと思ったら急に飛び出してきて」
「あ!」
 そうだった。俺はさっきのことを思い出して小松っちゃんに話した。
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