学園怪談
「潜った途端に目の前に大きな人が現れたんだよ! それでビックリして……って、そいつは?」
「そんな奴、始めからいないよ~。ほら」
 さっきまでいた場所を見たが、やはり誰もいない。
「おかしいな~、さっきまでは確かに……」
 そう言って俺は再び潜って見た。
 確かにはっきりと見た! 目の前を俺の2倍くらいはありそうな体の人間らしきものが、プールの壁に張り付くようにしてこっちを見ているのを!
「ぶうううう!」
 再び俺は勢いよく水面へ飛び出た。
 またアヒルがひっくり返ったので、急いで元に戻してやる。
「ヒクヒクッ、わざとやってるだろヒック、2回はないよ、ヒクッ」
「また出た! 間違いないよ、何か壁に張り付いていたんだって」
 壁を見るが何も見えない。
「あれ?」
 水に潜って見る。
 ……いた。
 出てみる。
 ……いない。
「あれは……水の中でしか見えない。きっと幽霊か何かなんだよ」
「なに、本当かい? じゃあきっと、ここで亡くなったっていう奴に違いない」
 信じられないことだが、幽霊は見間違えようもなくはっきりとしており、ソレは水の中でしか見えなかった。よく見ると、体が倍以上に膨れているのは皮膚が水でブヨブヨにふやけているのだという事が分かった。完全な溺死……どざえもんの幽霊だ。ソレはジッとこちらを窺うように見ているが、襲い掛かってくるような気配はない。
「普段の授業とかでは見たことないな」
「きっと、何か言いたいことがあって、成仏できずに出てきたんだ徹君聞いてやれよ」
 怖いことを言うが、この時の俺はなぜか不思議と平然としていた。
 潜って見ると、幽霊は自分の足の辺りを見た。
 ……ん? あ? 
「ぶううう!」
「おっと」
 今度は小松っちゃんも避けた。
「どうだったよ?」
「何か足に巻きついているヒモみたいな物が排水溝の部分に引っかかってる。どうやらそれを取ってもらいたいみたいだ」
「……そうか! なるほど、わかったぞ。謎は全て解けた。何か切れるものを持って来よう」
 そう言うと、アヒルは驚くほど滑らかに水面を進んでいった。
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