学園怪談
 ……家に帰ると母親のお帰りの挨拶に返事もせずに部屋に戻って布団にもぐりこんで泣いた。一生分の涙を流してしまうのではないかと思う位に泣いた。
「なんで! どうしてよ!」
 布団の中で、騙されたことが悔しくて泣いた。彼もみんなも憎い。何よりも簡単に信じてしまった自分が一番憎い! 誰よりも憎い!
 死んでしまいたいとさえ思った。この苦しみさえ消してくれるなら死んでしまっても構わない。そんな事を考えた矢先だった。
「……だから言ったのに……」
 布団の外から声が聞こえた。
「だから言ったのよ!」
 ガバッと起きて声の主を見ると、化粧台の三面鏡に映った三人の自分から同時に発せられた言葉だった。なおも3人は続ける。
「あなたなんかに彼氏なんて出来るはずない!」
「本当は騙されてるんじゃないかって気づいてたんじゃないの?」
「自分に変に自信なんてもったりするから!」
 三人は嘲るような、バカにするような顔つきで糸井さんを罵った。
「うるさい! うるさいうるさいうるさい! あんたなんかに、あんた達なんかに何が分かるのよ!」
 糸井さんはテレビのリモコンで次々と三面鏡の鏡を割った。手の甲が鏡の破片で切れたが、そんな事は気にならなかった。
「あなたなんかに恋人なんて出来ない」
「夢を見るのもいい加減にして」
 今度は手鏡から、姿見から、テレビのブラウン管から……。ありとあらゆる彼女を映すものから非難の声を出す自分の姿が映った。
「やめてえええええええ!」
 彼女はそれら全てを殴り壊すと、騒ぎを聞きつけて入ってきた母親を突き飛ばして家を飛び出した。
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