学園怪談

「あなたなんかに恋人はできない」
「もう死んだら？　楽になっちゃえば？」
「死んじゃえ！　死んじゃえ！」
　外を行く当てもなく走る彼女の目に自分の姿が飛び込んでくる。車のミラー、道行く人の眼鏡、水たまり……ありとあらゆる所から自分が自分を責め立てる。
　彼女はそれらの全てを壊しながら、全力で走った。
「もうやめてえええええええ！」
　泣きつかれ、走りつかれ、転びそうになった時、倒れ掛かるようにして一人の男の人にぶつかった。二人はもつれるようにして倒れこんだ。
「……い、糸井！」
　糸井さんに嘘の告白をした彼だった。
「アナタに恋人なんてできっこない！」
「騙されたのよ！」
　彼の瞳に映る自分がそう言った。
　糸井さんは黙って彼の顔を両手で掴むと、両方の親指を前に突き出した……。

　……私は痛々しくて耳を塞いだ。
「なぜ僕がこんな話を知ってるか分かるかな？　妹さんとは仲がいいんだ。だから彼女を通して知ったんだけどね……」
「それで、彼女は？　それから彼はどうなったんですか？」
「糸井さんはしばらく入院したけど、もともと外傷とかもそんなになかったからね、何とか退院して普通の生活を送っているよ、まあ前以上に臆病になっちゃったけどね……」
「それで彼の方は……？」
「それは聞かないほうがいいと思うよ……」
　私はブルブルと頭を振ると、それ以上のことは聞かないことにした。
　糸井さんの気持ちを考えるといたたまれない。そして、人の気持ちを踏みにじった男の哀れなその後を思い、ただ唇をきつく噛みしめていた……。