学園怪談
休みの日に友達と遊びに行くのにどこへ行くとか、ゲームセンターで遊ぶのはどれにするとか……缶ジュースを買うのに何にするかということまで決めていた。とにかく、どんどん自分で決断せずに、さいころエンピツに全てをゆだねるようになっていった。
「なあ菊田、今度の部活のミーティングは何曜日にするよ?」
「あ、ちょっと待ってくれ」
「ねえ菊田君は合唱際の曲はどれがいいと思う?」
「あ、ごめん、ちょっとだけ待ってくれる」
 クラスのみんなは、何かにつけてはエンピツを転がす菊田をだんだん無視するようになった。そんなに考えなくていいことすらも即答できない。菊田はいつの間にかそんな性格に変わってしまっていた。
 菊田はだんだん誰とも話さなくなり、部活にも顔を出さなくなった。学校を休むことはなかったけど、友達もみんな菊田を避けるようになって、ずっと菊田はひとりで呆けていることが多くなった。
 ……それからしばらくして菊田は自殺した。
 カッターで首の頚動脈を切ったんだ。それも放課後の誰もいない教室内でね……。
 事件の翌日、教室内に残った彼の荷物をまとめていた時、俺は彼のペンケースからはみ出していた例のさいころエンピツを見つけた。
 すっかり薄汚れていたけど、間違いなく俺のあげたエンピツだった。なんども削ったみたいで、もう小指くらいの長さしか残っていなかったけれど、そこに書かれていたのは。『捨てる』『捨てる』『捨てる』『捨てる』『捨てる』『死ぬ』 という6択だった。
 彼は6分の1の確率しかなかった究極の選択に従った。エンピツも彼が生きることを正解には導かなかった。
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