学園怪談
「……先生は、水子の霊にシンクロしたんだ」
 突然、トイレの方を見ていた淳さんがポツリとつぶやくように言った。
「水子って、なんだよ淳」
 徹さんも訳が分からずに聞いた。
「……ここのトイレで昔、一人の生徒が流産したって……聞いたことがある」
 ……流産! 中学生という身分で子どもが出来てしまうなんて、私には到底考えることが出来なかった。自分と同じ中学生という年齢で、子どものできる行為をしている人がいたと思うと、それだけで心は複雑な気分でいっぱいになった。
「でもなんで先生が?」
「たぶん……赤羽先生にはその……その経験が……」
 どことなく照れながら淳さんがうつむいて口ごもった。
 私は顔が急速に熱を帯びていくのを感じていた。
 ……やがて、先生は落ち着きを取り戻し始め、ポツリ、ポツリと話し始めた。
「始め……なんかトイレが嫌な雰囲気だったの」
みんな黙って耳を傾ける。
「そしたら、赤ちゃんの鳴き声が聞こえてきて……」
 先生は再びポロポロと涙を流し始めた。
「ごめんなさい。ごめんなさい。本当にごめんなさい」

 ……赤羽先生はそこでリタイヤとなり、みんなが心配そうに見送る中、職員用の通用口を後にした。
「水子の霊か……産まれてくる前に命を奪われてしまうっていうのも……辛い話だよな」
 徹さんはいつになく真剣な表情だ。
「当時の生徒も、それから先生も水子の霊をしっかりと供養してやらなかったのかもしれないな、今は中絶手術って簡単に出来ちゃうみたいだけど、やっぱり人殺しに違いはないからね……」
 淳さんも饒舌になっている。
 水子の霊か……。
 私たちはぎこちない笑顔で去っていく先生を見送ると、教室へと戻っていった。
『こっくりさん』に続いて怖い体験をしてしまった。
 この先いったい、どれだけの怖い体験が私をまちうけているのだろうか?

< 79 / 235 >

この作品をシェア

pagetop