学園怪談
 ……話を戻すわね。それで権兵衛君はそれから毎日、朝と放課後を美術室の絵の前で過ごした。
 美術部の人とかもいたけど、ほとんど活動してなかったから特に彼を邪魔する人もいなかった。彼は毎日、毎日通いつめて彼女に愛を語った。
 イジメを受けてボロボロになった日も、風邪をひいて熱があった日も、彼は彼女に会うために必ず学校に来ていた。気づけば彼は一度も学校を休まずに3年間を送っていた。
 ……ある日、卒業が近づいた日のこと。いつもどおりに美術室を訪れた彼が絵を見たとき、信じられない光景があった。
 彼女の顔にマジックで落書きがされていたの! 権兵衛君はあまりの事に身動きひとつせずに変わり果てた彼女の顔を見つめていた。そして、絵の前で愕然とする権兵衛君の傍らで、今まで彼をいじめてきたグループの人たちが嘲るように馬鹿笑いをしていた。
 絵とはいえ、自分の好きな女の子を汚された彼の怒りは相当なものだったんでしょうね……。彼はこの日、初めて人を殴った。
 もちろん、喧嘩で勝てるはずもないし、そのあとはボロボロにされてしまった。彼は泣きながら絵の中の彼女を見つめた。
 どんな落書きだったんだろうね、やっぱりヒゲとか、鼻の穴を黒くされたりとかかな……ごめん、続けるね。
 その日から卒業までの数日間。彼はほとんど美術室に篭ってその絵の修復作業を一人でやっていた。その姿は病気の彼女を介抱する姿とほとんど変わらなかったそうなの。彼は彼女に優しく語りかけた。
「大丈夫、必ず僕がキミを治してあげるから……大丈夫だよ」
 先生の話では絵心どころか、美術の成績自体も良くなかったらしいんだけど、それでも彼は頑張った。絵の具を何度も塗り重ねたり、時には削ったりしながら必死で彼女の修繕にあたった。
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