学園怪談
 目の前の彼女の姿は想像していたほど優しいものではなかった。
 腕、足、顔……胸、腹、尻……。体の至る所に隙間なく浮き出たミミズ腫れはドクドクと脈打っており、そこには明らかに内部で蠢く何かが潜んでいるように見えた。
そこには昨日までの彼女の整った顔も、透き通るように白く滑らかな肌も存在しなかった。
「いやあああ!」
 志村は泣き叫ぶ彼女を強引に胸に抱くと、強く体を擦りつけながら、大声で呪文のように唱えた。
「伝染れ! 俺に伝染れ!」
 裸になり、肌を重ねて彼女の全てを受け入れる。
「これでいい、これで明日にはお前の病気も治る。約束する」
 志村は泣き続ける彼女を残し、家にゆっくりと帰った。
「さて、次は誰に犠牲になってもらうかな……」
 そして志村は卒業アルバムを見ながら次の生け贄を探し始めた……。
 ……そして夜が明けた。
 コンコン。志村の部屋が何者かによってノックされた。
「ちょっと、いつまで寝てるの、母さん買い物に行ってくるから留守番お願いね。ご飯はおかずを冷蔵庫にいれておくからね」
 志村の母親は玄関を出て行ったが、志村は返事もせず、二度と起きてくることもなかった。
 部屋の中ではベッドに横たわる志村、そして彼の体を食い破り、体の上を這いずり回る無数のミミズに似た虫だけが存在していた。

 ……。
「伝染病にもタイムリミットがあったみたいだね。いつ爆発するかわからないゲームで、彼は最後のジョーカーを引いてしまったんだ。」
 大ちゃんさんは静かに言った。
「それで……、その後、病気はなくなったんですよね?」
「う~ん。確かにそれから伝染病の話は聞かないな。でもね、事件のミミズは全部処理されず、逃げ出したのも結構いたらしいから……」
 私は今日、昼間に誤って作ってしまったミミズ腫れを撫でた。
 ……明日、このミミズ腫れが増えませんように!

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