君が生きていれば、それだけで良かった。
感激した様子で手をあわあわと動かしては、右へ左へ行ったり来たりを繰り返している。息も荒く、興奮状態に他ならない。
でも他の人間には私の姿が見えない以上、壁に向かって興奮しているようにしか見えない。
「あ、あの、ちょっといいですか」
このままだと、彼は間違いなく不審者として捕まる。私は咄嗟に彼の手を握った。
手を伸ばしてから掴めないことに気付いたものの、指先から感じるほっそりと骨ばった皮膚の感触は確かで、私はつい動きを止めた。
触れた。