君が生きていれば、それだけで良かった。

 私について嗅ぎ付けてきたのだろう。情報が出回るのがはやい。

 おそらく私の身体は救急車で運ばれた。死んでいたら布に包まれていただろうけど、担架に乗っていたなら顔が出ている。

 私は止む無く踵を返し、病院の裏手──中庭へと回った。出入り口がなく入院中の患者が憩いの場としているらしく、点滴を取り付けたキャスターを押す高齢者や、小さな子供が何をするにでもなく座っている。

「なんでカメラ避けてるんですか?」
「ネット、見てない……?」

 ファンといえど彼の呑気な言葉に驚いて、つい問いかけてしまった。彼は「ああ、炎上のこと? そんなの気にしてませんよ! 僕は貴女ををいつだって信じます!」と口角を上げる。

「それより何で僕のこと引っ張ったんですか? っていうか何で僕警備員に追われてるの? もしかして、声かけたから? あれっ?」

 自分の目にしか私が映っていないことを、彼はまるで理解していない。
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