君が生きていれば、それだけで良かった。
 縁川天晴(えんがわあまはる)の言う通り、病院の駐車場には彼とそっくりな男の人が立っていた。

 助手席の扉が開いたのに、彼は私の腕を掴みながら素知らぬ顔でうしろの座席乗り込むと、そっけなく彼の父と話をして、車は発進した。

 それからというもの、会話はない。

 小学校のころ、明るい性格の男子生徒が授業参観で静かになる様子を見たことがあるけれど、それかもしれない。

 あれほど饒舌に話をしていた縁川天晴《えんがわあまはる》は、ただ私の手を掴み、ネットで私が転落したとされているニュースを見ている。画面に映りこんだ「炎上」の二文字を見て、私は反対側の車窓へ振り向いた。

 知り合ったとはいえど他人に連れられ、さらに知らない車に乗り込む。生きていたらありえない。
< 35 / 73 >

この作品をシェア

pagetop