君が生きていれば、それだけで良かった。
両親の車に乗ったことだって、数える程度しかない。
仕事では基本的に車移動だったけど、マネージャーの運転するワゴン車だったし、「乗る」というより運んでもらうことに近かった。
こうして車に乗った時は、私の身体がすり抜けて車だけ過ぎ去るんじゃないかとも思ったけれど、縁川天晴に腕を掴まれているからか、今もこうして彼と揺られている。
車窓を見る限り、家は都心から離れたところにあるらしい。高層ビルやマンション、飲食店が立ち並ぶ通りを抜け、次第に木々が風に揺れる光景が増えてきた。
景色が見慣れないものに変貌していくたび、降り積もるような息苦しさが募る。
どうしてついてきてしまったんだろう。
考えると同時に、病室から逃げたかったのだと思い至る。