君が生きていれば、それだけで良かった。

●●●


 いくつか遠くに山々が見えてきた頃、車はゆっくりと速度を落としていった。やがて車のドアが開かれて、私は促されるまま外に出た。

 電灯に照らされた真っ赤な鳥居に、堂々とした木造りの社。石畳がすっと並ぶ先には枯山水が広がり、その周りは竹藪が茂っていた。そして隣には、黒い長方形の群れが並んでいる。墓地だ。

 どこからどう見ても、ここは──、
< 39 / 73 >

この作品をシェア

pagetop