君が生きていれば、それだけで良かった。

 そんな至近距離は、アイドル同士でしかしない。ファンに嫌な思いをさせてはいけないし、疑われる行動をとってはいけないと、ただでさえ異性には極力近づかないようにしていたのだ。

「一人で何ぶつぶつ言ってるんだ。車戻してくるから、先帰ってなさい」

 彼のお父さんは首を傾げる。

 困った様子で縁川天晴《えんがわあまはる》は私を見た。ばつが悪くなり、「ごめん」と友達相手のような謝罪が口をつく。

 やがてお父さんは車を運転してお寺の裏、茂みの奥へと入っていく。お寺の裏に駐車場があるのだろう。 
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