君が生きていれば、それだけで良かった。
宣言しながら拳を上へと突き上げる縁川天晴をちらりと見てから、私は一軒家を見据える。車に乗っていたときは見えなかったけれど、霧雨が降っていたらしい。石畳は微かに濡れ、一軒家の光を反射していた。
「推しが実家に来てくれるなんて感動ですよ。俺しか見えないの勿体ないっ!」
ぴょんぴょん跳ねながら、海外のアニメ映画みたいな動きで彼は引き戸を開く。ガラガラと音を立てて現れたのは、時代劇で武将とかが暮らしているような玄関だった。
靴箱の上には木彫りの置物があった。仏像だろうけど、詳しくないからどういうものかは分からない。