彼女の居場所外伝 ~たんたんタヌキ~
「部長、お茶どうぞ。さっき京都の丸帆堂さんから頂いた宇治のお抹茶入りのお茶ですよ」
グッドタイミングで原田女史が現れてタヌキの前にお茶が置かれた。
色、香り共に素晴らしい。さすがは原田女史。
「ありがとう美子ちゃん。これお礼」
タヌキはおやつの山の中から有名なメーカーのクッキーの小箱を女史に渡してズズズっとお茶をすすった。
女史は「やったー」と女子高生のような嬉しそうな声を出して席に戻っていく。
「よっちゃんが嫌なら違う人に頼むからいいよ。行きたい人はたくさんいるだろうし」
タヌキは俺の顔を見ず、おやつの中から何か探すような仕草をしている。
行かなくて済むなら行きたくないに決まっている。
とにかく長期出張前で俺は忙しい。少しでもやれることはやっておきたいのだから。
「あ、あった、あった。これ、これ」
目的のものが見つかってご機嫌な様子のタヌキはそのあんパンみたいなふくふくした手に花の形をしたピンク色の薔薇の形のマドレーヌを乗せ、俺に見せつけるようにして口の中にそっと含んだ。
「んー美味しい。これ珍しいんだよ。ホントに薔薇の花びらが練り込まれてるらしくて」
再びモグモグが始まった。
大丈夫か、本当にタヌキの血糖値が心配になる。これでは奥サンも谷口も心配するわけだ。
「別の人に頼むか。僕はぁそれでももぐかまわないけど。もぐ。よっちゃんは後悔しないね?」
”後悔”
その言葉にハッとしてタヌキの手元によけられたおやつに視線を向ける。
絶対になにか意味がある。
このタヌキの行動や言葉には隠れた意味があるはず。
タヌキが食べた薔薇のマドレーヌ。
わざとらしくよけられた4つのお菓子。
イタリアの超有名なブランドチョコレート。しかも最高品。
北海道で有名なメーカーのチョコレート。老舗ではないが今の社長が一代で築き上げた会社のもの。
プロテインバーのパッケージに書かれた絵はアニメ映画との期間限定コラボ商品。
脳外科手術で感情を破壊されスパイとして教育された「サイボーグ」みたいな主人公がヒロインと出会い人間としての感情を取り戻していくアクションアニメのもの。
そしてビーフジャーキー・・・。
無言で考える俺に見せつけるようにタヌキはプロテインバーを手に取った。
「そう言えば社長の直属のチームがイタリア出張しているんだってね。明日から社長秘書の林君が合流することになっているんだ。知ってた?」
「いえ、知りませんでした」
出張メンバーは由衣子と小林主任だ。そこに林さんが加わるということか。
ーーー待てよ・・・サイボーグーーー林さん?
頭のてっぺんを軽く殴られたような衝撃に襲われ「俺に行かせてください!」と立ち上がった。
「うん、ギリギリ合格。行っておいで。ドイツの仕事が終わったら2泊分休暇をあげるからね。ホテルはもう予約済み。イタリアに移動してからの必要経費は副社長のポケットマネー。ずいぶんと迷惑かけられているし、この先もしばらくはこんな状態だろうから君も彼女も有給休暇でいいよ。二人で豪遊しておいで」
タヌキは空々しい笑顔を見せた。
「でも、惜しかったなあ。高橋君が嫌がったらここにもう一人候補を加えようと思ったのに」
タヌキが胸元のポケットからごそごそと取り出したものをテーブルのビーフジャーキーの隣にそっと置いた。
その七味唐辛子の小瓶程度の大きさの筒状のものはどうやら抹茶味の羊羹のようだ・・・しかしパッケージに描かれたデザインを見て血の気がひいた。
そこに描かれていたのは目の前にいるタヌキとそっくりな子タヌキが笑っているデザインなのだ。
ギリギリだったが間に合ってよかった。心の底からホッとする。
さっきからおやつと見せかけて由衣子に宛がう男を選ぼうとしたのだ、このタヌキは!
薔薇のマドレーヌはもちろん由衣子のことだ。
イタリアの高級チョコレートは御曹司エディージオ。
北海道のお菓子は北海道支社にいた小林主任。
プロテインバーはサイボーグと呼ばれている林さん。
ようかんはその絵の通りタヌキの甥の竜之介。
間違いなく残りのビーフジャーキーが俺。
俺がビーフジャーキー・・・なぜかといえば、
俺がまだガキの頃、初めて食べたビーフジャーキーの美味しさの虜になり母親に隠れて貪り食って挙げ句にその塩分にやられて膀胱炎になったという黒歴史に由来していると思われる。
いつまでそんなこと覚えてるんだよ、まったく。
だから嫌なんだ。生まれる前から知られている上司なんて最悪だ。
エディージオに小林主任に林さん。おまけにしれっと自分の甥の竜之介を混ぜてきやがった。
竜之介はタヌキの妹の子供ということで名字は神田ではないし、顔も全く似ていないからほとんどの人間が柴田竜之介がタヌキの甥だということに気が付いていない。
知っているのはうちの上層部と両親がタヌキの知人である俺だけ。
あまり接点がなかったから今年入社した広報部にいる竜之介のことを忘れていた。アイツは伯父に似ないでかなりのイケメンに育っていた。どこに行った神田家のDNA。
マジで危なかった・・・・。
グッドタイミングで原田女史が現れてタヌキの前にお茶が置かれた。
色、香り共に素晴らしい。さすがは原田女史。
「ありがとう美子ちゃん。これお礼」
タヌキはおやつの山の中から有名なメーカーのクッキーの小箱を女史に渡してズズズっとお茶をすすった。
女史は「やったー」と女子高生のような嬉しそうな声を出して席に戻っていく。
「よっちゃんが嫌なら違う人に頼むからいいよ。行きたい人はたくさんいるだろうし」
タヌキは俺の顔を見ず、おやつの中から何か探すような仕草をしている。
行かなくて済むなら行きたくないに決まっている。
とにかく長期出張前で俺は忙しい。少しでもやれることはやっておきたいのだから。
「あ、あった、あった。これ、これ」
目的のものが見つかってご機嫌な様子のタヌキはそのあんパンみたいなふくふくした手に花の形をしたピンク色の薔薇の形のマドレーヌを乗せ、俺に見せつけるようにして口の中にそっと含んだ。
「んー美味しい。これ珍しいんだよ。ホントに薔薇の花びらが練り込まれてるらしくて」
再びモグモグが始まった。
大丈夫か、本当にタヌキの血糖値が心配になる。これでは奥サンも谷口も心配するわけだ。
「別の人に頼むか。僕はぁそれでももぐかまわないけど。もぐ。よっちゃんは後悔しないね?」
”後悔”
その言葉にハッとしてタヌキの手元によけられたおやつに視線を向ける。
絶対になにか意味がある。
このタヌキの行動や言葉には隠れた意味があるはず。
タヌキが食べた薔薇のマドレーヌ。
わざとらしくよけられた4つのお菓子。
イタリアの超有名なブランドチョコレート。しかも最高品。
北海道で有名なメーカーのチョコレート。老舗ではないが今の社長が一代で築き上げた会社のもの。
プロテインバーのパッケージに書かれた絵はアニメ映画との期間限定コラボ商品。
脳外科手術で感情を破壊されスパイとして教育された「サイボーグ」みたいな主人公がヒロインと出会い人間としての感情を取り戻していくアクションアニメのもの。
そしてビーフジャーキー・・・。
無言で考える俺に見せつけるようにタヌキはプロテインバーを手に取った。
「そう言えば社長の直属のチームがイタリア出張しているんだってね。明日から社長秘書の林君が合流することになっているんだ。知ってた?」
「いえ、知りませんでした」
出張メンバーは由衣子と小林主任だ。そこに林さんが加わるということか。
ーーー待てよ・・・サイボーグーーー林さん?
頭のてっぺんを軽く殴られたような衝撃に襲われ「俺に行かせてください!」と立ち上がった。
「うん、ギリギリ合格。行っておいで。ドイツの仕事が終わったら2泊分休暇をあげるからね。ホテルはもう予約済み。イタリアに移動してからの必要経費は副社長のポケットマネー。ずいぶんと迷惑かけられているし、この先もしばらくはこんな状態だろうから君も彼女も有給休暇でいいよ。二人で豪遊しておいで」
タヌキは空々しい笑顔を見せた。
「でも、惜しかったなあ。高橋君が嫌がったらここにもう一人候補を加えようと思ったのに」
タヌキが胸元のポケットからごそごそと取り出したものをテーブルのビーフジャーキーの隣にそっと置いた。
その七味唐辛子の小瓶程度の大きさの筒状のものはどうやら抹茶味の羊羹のようだ・・・しかしパッケージに描かれたデザインを見て血の気がひいた。
そこに描かれていたのは目の前にいるタヌキとそっくりな子タヌキが笑っているデザインなのだ。
ギリギリだったが間に合ってよかった。心の底からホッとする。
さっきからおやつと見せかけて由衣子に宛がう男を選ぼうとしたのだ、このタヌキは!
薔薇のマドレーヌはもちろん由衣子のことだ。
イタリアの高級チョコレートは御曹司エディージオ。
北海道のお菓子は北海道支社にいた小林主任。
プロテインバーはサイボーグと呼ばれている林さん。
ようかんはその絵の通りタヌキの甥の竜之介。
間違いなく残りのビーフジャーキーが俺。
俺がビーフジャーキー・・・なぜかといえば、
俺がまだガキの頃、初めて食べたビーフジャーキーの美味しさの虜になり母親に隠れて貪り食って挙げ句にその塩分にやられて膀胱炎になったという黒歴史に由来していると思われる。
いつまでそんなこと覚えてるんだよ、まったく。
だから嫌なんだ。生まれる前から知られている上司なんて最悪だ。
エディージオに小林主任に林さん。おまけにしれっと自分の甥の竜之介を混ぜてきやがった。
竜之介はタヌキの妹の子供ということで名字は神田ではないし、顔も全く似ていないからほとんどの人間が柴田竜之介がタヌキの甥だということに気が付いていない。
知っているのはうちの上層部と両親がタヌキの知人である俺だけ。
あまり接点がなかったから今年入社した広報部にいる竜之介のことを忘れていた。アイツは伯父に似ないでかなりのイケメンに育っていた。どこに行った神田家のDNA。
マジで危なかった・・・・。