彼女の居場所外伝 ~たんたんタヌキ~
「あの箱のサイズ的にーーあれは新しいカメラですよね」

自信たっぷりにそう言ってやると、タヌキは眉をしかめた。

「・・・支社の根回しは僕がやっておくし、大野君と山ノ下くんへの説明もやっておくからそれやったら高橋君は帰っていいよ。ドイツ出張とか愛しのゆいゆいとの休暇旅行の支度でもすればいいさ」

「ありがとうございます、部長。シノブさんの分もワインをゲットしてきますから」

してやったりの笑みを浮かべると、タヌキはフンっと鼻を鳴らした。

「まだゆいゆいが君のものになるとは決まってないからね。ゆいゆいがうちの子になる可能性はゼロじゃないから」

「はいはい、夢見ることは自由ですからね。では、これで失礼します」

俺は開いていたパソコンを閉じて素早く帰り支度をして立ち上がった。

「早く行っておいで。おーい、大野くーんちょっと来て」

タヌキに呼ばれた後輩大野の肩をすれ違いざまに軽く叩き「しばらくお守り頼んだぞ」と声をかけると苦笑いを返された。

ホワイトボードの自分の名前の横にドイツ出張と3日間の休暇の文字を書き込んでおく。


いつだって強がりを言うあいつが初めて泣いた夜、酔って眠ってしまったあいつの側を離れることなどできなくて。
あの時は二人の間に何もなかったけれど、何となくで付き合っていた当時の彼女と別れていてよかったと思ってしまった。

思えば、由衣子のことは入社試験で見かけた時から気になっていた。一目惚れだったのかもしれない。

それからたまに吐くようになった弱音を受け止めてやれば、薔薇の棘が抜け落ちただの美しい花に変わることに気がついた。

あいつの心は恋愛を、他人と深い関わりを持つことを拒絶していた。
でも、もう十分待った。もう待たない。
今すぐに捕まえてやる。待ってろ、由衣子。
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