彼女の居場所外伝 ~たんたんタヌキ~



「指示通りできてます、部長。確認してください」
「うん、ありがとう大野くん。世話をかけるね」

「いいえ。高橋先輩のためだと聞いたら何でもやらせていただきます。新人の頃イチから面倒みてもらいましたし」

爽やか笑顔の大野くんの手からファイルを受け取り目を通すとOKを出した。

「支社へ回しといて。ここまでやってあれば十分だ」

そう言ってやると大野くんは嬉しそうに出ていった。


「部長。高橋くんに何を仕掛けたんですか?彼、珍しく相当焦っていたみたいですけど」

美子ちゃんが訳知り顔で微笑んでいる。

「いえね、そろそろ彼も羽ばたいていく時期かと。それにわが社のがんばり屋さんが他社に獲られないか社長が心配してたんで、だったらいい環境で目の届く所に置いておこうかと思いまして」

「そうですか。・・・部長、お疲れさまでした。どうぞ」

目の前に新しいお茶が置かれる。
綺麗な若草色にほんのりと香る甘い香り。

「あ!僕の好きな薄茶糖」

「早希ちゃんが特別なご褒美にと淹れていたのを思い出しまして」

「うん、ありがとう」

この薄茶糖、アイスでも美味しいけれど、今日はホットな気分。
ひとくち口に含むと、優しい甘みが口に広がる。

「部長、今また小包が届いてますけど、これは、まさか・・・?」

「あ、高橋くんとの話聞こえてた?」

僕の問いかけに美子ちゃんが困ったような顔でうっすら笑う。

「これねーーー同じものを3個買ったんだ。中身を入れて副社長と高橋くんにあげようと思って。もう一つはもちろん僕のなんだけど」

箱の中から一つ取り出して美子ちゃんに見せた。

「あら」美子ちゃんはにっこりと綺麗な笑顔を浮かべると「お代わりが欲しくなったら声をかけてくださいね」とお盆を軽く持ち上げてみせた。

「二人とも喜びますよ。高橋くんは恥ずかしがってデスクに置かないかもしれませんけど、副社長は絶対に活用するでしょうね」
「イイ仕事するでしょ、ボク」
「はい。とっても」

今届いた宅配便の中身はカメラではない。
デジタルフォトフレームだ。
二人へのプレゼントももちろんデジタルフォトフレーム。

ゆいゆいの写真は広報部に言えばたくさん手に入る。
彼女は何度も社内報や雑誌の取材を受けていたから。

早希ちゃんの写真なら僕のスマホに。
近況報告として甥姪と共に写った写真を定期的に送るように本人に指示していたから。彼女はきちんと約束を守っていてくれていた。

これらをそれぞれ二人のフォトフレームに入れてプレゼントをするつもりだ。

これから忙しくなって愛しの彼女にほとんど会えないかもしれない高橋くんの日々の支えとして。

長いこと我慢した副社長には後少し頑張ってもらうための餌として。

そして自分にはかわいい孫と娘、そしていつまでも魅力だらけの奥さんの写真を。

ご褒美、ご褒美。




~たんたんタヌキ~

おしまい



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