彼女の居場所外伝 ~たんたんタヌキ~
翌日、史也さんはすぐに時間を作ってくれ私が勇気を振り絞って聞いた問いをあっさり否定した。

「谷口さんとは業務のことで連携しているだけで、恋愛感情は持っていないけれど、その答えで薫さんは納得してくれる?」

私の問いかけに機嫌を損ねてしまったようで史也さんの表情はかたく冷たいものだった。

「ご、ごめんなさい・・・。私、不安で」

史也さんは大きなため息をついた。

「・・・この先も谷口さんとは連絡を取り合うことがある。それは谷口さんに限らず他の部署の女性だったり、他の会社の女性だったりすることもあるけど、その度に薫さんはこうやって不安になるのかい」

思わず息をのんだ。

「もちろん、こちらに恋愛感情がないとしてという前提で」

それは・・・と声に出そうとして口を閉じる。
いま何を言っても史也さんには届かない気がする。

私が口をつぐんだことで史也さんは車のエンジンをかけた。

「夕食を一緒に、と思ったけど、今夜はこのまま帰ろう。送るよ」

私は黙って頷くしかなかった。

本当は久保山のおうちに送って欲しかったけれど、さすがにそれはどうかなと思いひとりで暮らすマンションに送ってもらった。

史也さんは車を止めると、私の顔を真っ直ぐ見つめた。

「お試しとはいえ薫さんとお付き合いをしている以上、他の女性と関係を持つような真似はしない。ただそれを証明する手段はないし、自分は社長秘書なんて立場にいていろいろと同じ職場の薫さんにも話せないことがある。・・・このまま付き合ったとして薫さんはそれを我慢できる?」

我慢?
それを我慢できなければお付き合いはやめようって言われてしまう。所詮私たちの関係はお試しなんだから。

「ごめんなさい。私、史也さんの仕事のこととかよくわかってなくて。これからはそんなこと言わない・・・」

唇を噛みしめて涙がこみあげてきそうになるのを堪える。
いま泣いちゃダメだ。

「薫さんを泣かせたいわけじゃないから」
林さんは私の頭を撫でてくれた。


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