彼女の居場所外伝 ~たんたんタヌキ~



お付き合いをなかったことにされるのが嫌で、史也さんのことを詮索しないと決めたもののーーーどうしたって気になる。

先日、とうとう谷口早希の前で笑っている史也さんの姿を見てしまった。

秘書室に社長室から4人分のお茶のコールがあり、持って行くと中には社長の健斗兄さんと、史也さん、神田部長と谷口早希が応接セットのソファーに座っていて、彼女以外の3人の男達が楽しげに笑っていたのだ。

ぷくぷくした丸顔の神田部長はケラケラと陽気に笑い、健斗兄さんと史也さんも我慢が出来ないという感じで声を上げて笑っている。彼女はというと、困っているのか怒っているのか上目遣いで神田部長を睨んでいた。

私の姿に気がついた健斗兄さんが
「ありがとう、お茶は適当に置いていってくれればいいよ」
といかにも早く出て行って欲しい雰囲気を出してきたことに更に傷つく。

史也さんが席を立って私の手からトレイごと受け取った。

「ありがとう。後は自分がやりますから」

そう言われてしまったらもう退室するしかない。はいと小さく返事をして一礼して社長室を出た。

見慣れない笑い顔に戸惑うどころか胸が痛い。
心を許した人の前では口を開けて笑うのかしら。本当はもっと表情豊かなのかしら。

詮索しないと約束したはずなのに、私の心はどんどん暗く澱んでいく。
このところ私は久保山の家の私の部屋から通勤している。ひとりでマンションにいるとさみしくて仕方がないから、伯母さまのところに避難しているのだ。
最近は康ちゃんも滅多に実家の久保山のおうちに帰ってこない。前はお願いすれば1時間でも顔を出してくれたのに。





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