彼女の居場所外伝 ~たんたんタヌキ~
「どうしたって言うんだ?」

「だって、昨日だって帰ってくるっていったのに帰ってこなかった。最近電話もメールも返してくれない。私はひとりぼっちなのに」

「何言ってんだ。誤解だよ。昨日は夜実家に行こうとしたら、また服部会長から呼び出しがあって会長夫人の入院してる病院に顔を出していたんだよ。意識が戻ったって聞いたら行かないわけにいかないだろう」

「私のことどうでもいいと思ってない?私のこと見捨てない?健斗兄さんみたいに嫌いにならない?」

私は康ちゃんの腕にしがみついた。

「兄貴だってそんなこと思っちゃいないって」

「嘘。健斗兄さんは自分ちの奥さんと子供のことばっかり」

ひくひくと喉を鳴らして泣いていると康ちゃんが背中をさすってくれる。

「泣くな。気にしなくて大丈夫だ。誤解だよ。」

でも、康ちゃんだって私から離れていこうとしてる。一度泣き出したら涙はなかなか引っ込まない。

「薫、いいから落ち着け。ここは会社だ。このままここで泣くのがまずいのはわかるだろう。落ち着いて顔を洗って今日はタクシーで帰れ」

優しく背中を押されて仕方なく離れた。

「うちについたらメールしろよ」

これ以上ここにいるなという意味を読み取り執務室を出た。
確かに私はここで経営者一族の親戚だと言うことを公にしていない。万が一誰かに見られたら醜聞になってしまう。

「ごめんなさい」

小さく謝り副社長室を出て化粧室に飛び込む。
ひどい顔だった。
これじゃ誰にも顔を見られたくない。
地下駐車場にタクシーを呼び、重役用エレベーターを使って真っ直ぐ帰宅した。

その晩は久しぶりにぐっすりと眠ることが出来た。
泣いて慰めてもらってすっきりした。
やっぱり副社長室に行って康ちゃんに話を聞いてもらって良かった。


< 23 / 87 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop